えほんだより7通目

防災や災害伝承を描いた絵本について紹介している「えほんだより」。東日本大震災の発生から15年を迎えた3月、私は陸前高田を訪れ、『奇跡の一本松』に再び(厳密にいうと三度)会ってきました。
震災から10年目までに陸前高田の復興工事はほとんど終了し、外からの人はほとんどいません。高台移転によって町の規模も縮小・分散。静かな海辺を、奇跡の一本松はすっと見守り続けています。
7万本もの松原が津波に飲まれ、一本だけ残った大きな松。この松に希望を託し、震災後にいくつもの絵本が生まれました。それぞれの思いを込めて描かれた一本松を今回はご紹介します。

1冊目は「松の子ピノ〜音になった命〜」(文:北門笙 絵:たいらきょうこ 小学館 2013年)
津波からひとりだけ残った松のこどものピノ。孤独の中で「いつかみんながかえってきますように」と祈ります。そこへ現れたのがバイオリン職人のおじいさん。おじいさんは津波で倒れた木を拾い集めてぴかぴかのバイオリンを作ります。それは聞いたことがないくらい美しい音色を奏でるバイオリンでした。その音に眠っていたピノが目を覚ますと、そこにはお父さんやお母さんの姿が。ひとりじゃない、音になって今でも生きていると二人は話しかけ、他の松とともに一晩中ピノのために歌うのでした。奇跡の一本松を描いたものの中で私が最も好きな作品です。悲しみと再生の優しい物語で、夜明けの美しい場面に胸が熱くなります。

2冊目は「奇跡の一本松 大津波を乗り越えて」(絵と文:なかだえり 汐文社 2011年)
震災の起きた2011年10月に出版されたこの作品では、当時の状況だけでなく過去に起きた三陸での津波のことも一本松の視点で語られます。誰よりもこの地を知る長老の松。津波で一本だけ生き残ったものの、体も心も弱っていきます。それを見た人間たちは「おまえはおらだちの勇気だ」と枯れないよう世話をし、松は少しずつ元気を取り戻していくのでした。松は、この松原のことや過去の津波で何が起きたのかをぽつりぽつり話し始めます。松原が存在することの意味を知る人間、そして自分が生き残ったことの意味を知る松。二度と繰り返してはならない悲劇と教訓が陸前高田の言葉とともに綴られ、災害と復興についてより現実的に学びを深めることができる一冊です。

3冊目は「きせきの一本松」(文と絵:のはらあい 河出書房新社 2013年)
背が高いけれど、ちょっぴり恥ずかしがり屋な松にゃん。厳しい冬が過ぎ、大好きな松吉とともにうきうきしていました。そこに襲ってきた大きな津波。松にゃんは一人だけ生き残ってしまい、自分を責めます。泣き続ける松にゃん。しかし、そんな自分でも人々が勇気づけられている様子を見て、元気が湧いてくるのでした。みんなに勇気を与え続けた松にゃんはやがて、二度と目を覚ますことのない眠りにつきます。しかし、松にゃんが残した松ぼっくりから新しい命が生まれ…。アニメ寄りのはっきりとした絵やビビッドな色づかいのため、小さな子どもや絵本に親しみがない層にも手に取ってもらいやすい作品です。

最後は、「希望の木」(文:新井満 絵:山本二三 東京法令出版 2015年)
芥川賞作家で「千の風になって」の作詞作曲者でもある新井満さんと、「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」などの美術監督を務めた山本二三さんという豪華な制作者によって生み出されたこの作品は、新井さん自身が制作に向かうまでの姿とイメージソングの楽譜まで含めて描かれている、全50ページにもわたる大作です。すべての松が日本神話の神々のような姿に擬人化され、辛くとも生きることの意味と美しさを教えてくれます。他とは一線を画す芸術的な一冊だと感じることでしょう。

様々な角度から様々な思いを込めて描かれた「奇跡の一本松」。あなたはこの一本松から何を受け取ったでしょうか。
それではまた、お便りします。それまでどうぞお元気で。

古賀涼子

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