えほんだより2通目

防災絵本専門士の古賀涼子です。防災や災害伝承を描いた絵本について紹介している「えほんだより」2通目です。

7月30日午前にロシアのカムチャツカ半島付近で発生した地震により、日本の沿岸にも長時間にわたって津波警報や津波注意報が発表されましたね。
もしかするとあなたも避難した、あるいは避難誘導をしたという状況だったかもしれません。
日本では実際に3〜4mの津波が観測されて、すべての注意報が解除されたのは翌日の夕方…想像以上に長時間にわたるものとなりました。多くの方がすぐに避難したこともあって大きな被害は出なかった一方、避難したものの酷暑に耐えきれず、相当数が警報や注意報が解除される前に自宅に戻ってしまったという課題も浮き彫りとなりました。
東日本大震災では寒さが非常に厳しい中での避難。季節によって、同じ避難でも大きな違いがあることに気付きます。
今回のことを機に改めて、より現実を踏まえた避難の準備をしたいところです。そこで役立つのが、津波を描いた絵本。今回は、津波が起きたその時をとてもリアルに描いている2冊ご紹介します。

1冊目は「つなみのえほん ぼくのふるさと」文と絵:くどうまゆみ(市井社、2012年)。
東日本大震災での実話がベースとなっています。作者の工藤さんの自宅は宮城県南三陸町にある神社。5歳になる息子さんを含めた5人家族です。家におばあちゃんと息子を残し買い物に出かけたところで東日本大震災が発生。工藤さんは急いで高台にある家へと戻り、一家はさらに高台を目指して避難します。しかし、無情にも避難する人々の上には冷たい雪が。この絵本では、東北の3月という自然条件の厳しさが、被災した当人だからこその目線で随所に盛り込まれています。物語の文と並行して綴られている詩にはこのような一節が。「わずかな毛布を かけ合って 眠る 砂だらけの足を 重ねて」。避難した体育館で、体操マット2枚の上、卒業式で使う予定だった紅白の幕を毛布がわりにして居合わせた8人が眠る。けれど、「横になれるだけ幸せだった」との実情に、ページをめくる手が止まります。誰もが寒さに震えて身を寄せ合う絵にも胸が締め付けられます。これが現実です。

2冊目は、「ふろしきづつみ」文と絵:小松則也(ツーワンライフ出版、2013年)。
こちらもまた東日本大震災での実話を元に描かれた絵本です。物語の舞台は岩手県立高田病院。当時、患者と職員合わせて164人が屋上に避難して救助され、25人が犠牲となりました。当時、入院していた「父」。4階の病室にいたにも関わらず、病室に津波が押し寄せてきます。ボートのように浮かぶベッド、父が落ちないようにしがみつく「母」と「妹」。水に浸かりながらなんとか3人は屋上に避難するものの、体の弱った父に寒さが襲いかかります。そんな時、目の前にふろしき包が流れ着いて・・・ほとんど濡れていない毛布やパジャマが奇跡的に目の前に現れ、三人が寒さを凌ぐ様子が描かれます。防寒具が命を守る最後の砦となる。これもまた、体験した人にしか綴ることのできない現実です。なお、作者の小松さんは岩手県内の学校教諭で、この物語は語り手の方の話をベースに、高田病院での事実を伝えたいと絵本にしたそうです。小松さんは普段から、絵本を活用した防災教育や復興教育を行っています。また、この絵本には英訳がついているため、大きな地震や津波を経験したことがない海外の方にも、津波災害の現実を知ってもらうことができます。

津波災害のリアルは、読むのが辛いと感じることもあるでしょう。でも、知らなければ、正しく備えることはできません。どうかこれを機に、手に取って頂けると幸いです。
それではまたお便りします。それまでどうぞお元気で。
古賀涼子

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