えほんだより4通目

防災や災害伝承を描いた絵本について紹介している「えほんだより」。4通目の今回は、「さんてつ」と絵本についておたよりします。

美しい海沿いをガタンゴトンと進む小さな電車…あなたは何を思い浮かべるでしょうか。ふるさとの景色かもしれませんね。そんな、みんなにとってのふるさとの原風景とも言えるのが、岩手県の太平洋沿岸部を走る三陸鉄道、通称「さんてつ」です。
1984年に開業した全国初の第三セクター鉄道で、現在は三陸鉄道リアス線として約163キロ全41駅を結んでいます。地元の人々の生活を支える大切な存在。しかし、2011年3月11日の東日本大震災が起きたあの日、さんてつも大きな被害を受けました。当時は北リアス線として久慈〜宮古、南リアス線として釜石〜盛(さかり)をそれぞれ結んでいましたが、津波に襲われ、線路が瓦礫や車などで塞がれたり歪んだりしてしまいました。

ところが、地震からわずか5日目には久慈から陸中野田までの2区間、さらに9日目には田老から宮古までの4区間で運転を再開します。余震が続いているにも関わらず、さんてつの社長の決断の元、社員やスタッフ、自衛隊などが一丸となって復旧作業にあたったのです。津波で大きな被害を受けた人々は、さんてつが再開した姿にどれほどの勇気と希望をもらったことでしょうか。

そんなさんてつ・・・実は4冊もの絵本が出版されていて、どれも胸を打つ素晴らしい作品です。小さなこどもたちに災害や復興をリアルに考えてもらうことは難しくても、これらの絵本を一緒に読むことで確かに感じてもらうことはできます。ぜひ一緒にページを開いて、さんてつの希望の旅に出てみませんか?

1冊目は「はしれさんてつ、きぼうをのせて」(文:国松俊秀 絵:間瀬なおたか WAVE出版 2014年)
さんてつがどのような成り立ちで、これまでどのように人々に愛されていたのか、美しい北三陸の景色とともに始まる絵本です。そんなさんてつのターミナル駅で本社もある宮古市。東日本大震災の発生で町の中まで津波が・・・当時の町の人々や乗客の様子、判断を迫られた運転士や社員、瓦礫に覆われる町の光景など、震災当時のことがとてもリアルに描かれています。しかし、そこからすぐに始まるさんてつの復旧の道のり。まさに希望を乗せて走るさんてつの姿に涙がこぼれます。表紙裏に描かれた路線図の絵も理解を深めてくれます。

2冊目は「でんしゃがきた」(作:竹下文子 絵:鈴木まもる 偕成社 2013年)
実はさんてつが主人公の絵本ではありません。山間を走る小さな電車、出勤ラッシュの山手線や東京メトロ、遊園地の電車、その歴史に幕を閉じる特急列車、美しい新幹線。様々な電車が人々を乗せる光景が続きます。その最後に登場するのが、海辺の何も無くなってしまった平地を進む2両編成の電車。さんてつです。「みんなみんなまっていたんだ。でんしゃがくるのをまっていたんだ。」この文に込められた意味の深さは、小さな子どもでもきっと理解できる気がします。

3冊目は「リアスのうみべ さんてつがゆく」(作:宇部京子、絵:さいとうゆきこ 岩崎書店 2021年)
震災から10年後に出版された、復興する町と人々をさんてつが温かく包み込むようなお話です。あの日にどんなことが起きたのか、そこからさんてつとともに人々がどのように歩みを進めていったのか。より小さな子どもでも読める文章量や表現、柔らかな絵です。ポーポーポーポー。さんてつの音がページをめくるたびに聞こえてきます。

最後は「うみねこいわてのたっきゅうびん」(文:関根榮一 絵:横溝英一 小峰書店 1990年)
驚くことに東日本大震災が起きるよりもずっと前に描かれた絵本なんです。登場するのは、人に化けたきつね・・・さんてつで運ぶ、うみねこのたまごの宅急便。無事にお届けできるでしょうか?震災が起きる前の岩手沿岸部の美しい景色や当時のお店、乗り物が描かれていて、タイムスリップした気分になれます。久慈駅から「16じ20ぷん はっしゃ。みやこまでは1じかん30ぷん。」あなたもさんてつのゆったりした旅を一緒にお楽しみくださいね。

それではまたお便りします。それまでどうぞお元気で。
古賀涼子

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