えほんだより6通目

防災や災害伝承を描いた絵本について紹介している「えほんだより」。ここから数回にわたって、東日本大震災をめぐる絵本についてお便りします。

この3月11日で東日本大震災の発生から15年を迎えます。強い揺れと巨大な津波に加え、原発事故…未曾有の出来事に、人だけでなく動物も植物も深刻な影響を受けました。
中でも避難区域に指定された福島県の一部地域では、避難の過程で取り残されたペットや家畜の孤立死や野生化の問題が発生。その光景に胸を痛めた方も多いことでしょう。
また、いまも立ち入りが制限されている地域では雑草が覆い茂り、人の気配がなくなった建物の壁には蔓性植物が這い上がっています。数年前に取材で双葉町や大熊町を訪れた際、荒れ果てた景色に言葉を失うばかりでした。
しかし、震災から時間が経つにつれ、動植物の被害が語られる機会は少なくなっています。人命に直接関わるものではないからでしょう。そこで今回は、それらを語り継ぐ絵本を3冊ご紹介します。

1冊目は「失われたバラ園」
(文:はかたたん 絵:さわだまり 日本地域社会研究所 2018年)
『バラ園がありました。それはそれは、美しいバラの花園でした。』物語はこんな言葉とともに、細密に描かれたバラの花いっぱいの扉絵から始まります。双葉町に実際に存在し、園長・岡田勝秀さんが45年もかけて一人で作り上げた、700種7500株が咲き誇るバラ園が舞台です。主人公は「あねさん」。クイーンエリザベスという、このバラ園最初の苗木から大きく育った一輪のバラです。あねさんと「じいじ」こと岡田さんの会話を通じて、この場所が沢山の人たちに愛されてきたのかとても美しい絵で描かれます。ところが、東日本大震災の原発事故でじいじは避難せざるを得なくなり、バラ園は荒れ果てていきます。最後の一輪となるまで懸命に生き残ったあねさんですが、どうなったのでしょうか…。原発事故の現実が胸に深く突き刺さります。

2冊目は「おじいさんとヤマガラ 3月11日のあとで」
(作と絵:鈴木まもる 小学館 2013年)
山の中に住むおじいさん。生き物が大好きで、毎年春になるとヤマガラという鳥のために巣箱を6個作り、家の周りの木に取り付けてきました。巣箱の中では母鳥たちが卵を産み、卵から孵ったひなたちが元気に巣立っては、その年の冬にまたおじいさんの家の周りに戻ってくるのでした。ところが3月。家から山をいくつか超えたところにある原発が津波で壊れてしまいます。5月になっていつも通りにヤマガラたちはやってきましたが…。お話の中でおじいさんは、動物たちに放射線の影響を知らせる術がないことを悲しみながらも、これまで以上に自分のできることをして、動物たちと一緒に元気に暮らしていこうと考えます。原発事故を批判的に描く作品もある中、この作品はより冷静かつ広い視点をもって命への想いと願いが綴られています。鈴木さんのひたすら優しい絵と言葉の選び方は、小さなお子さんとともに読むのにもお勧めです。

3冊目は「長いおるすばん」
(文:志賀伸子 絵:石黒しろう 文芸社 2019年)
避難区域に取り残されてしまったペットや家畜の生々しい生死を描いた一冊です。文章量も絵本としては多めで、動物の死の場面も絵として描かれています。作者は浪江町に暮らしていた元国語教諭で、自身の経験を元にこの作品を生み出しました。無かったことにしてはならない現実を石碑のように遺す存在と言える絵本です。目を逸らさずに向き合うためには、この絵本が必要だと心から感じます。

それではまた、来月お便りします。それまでどうぞお元気で。
古賀涼子

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