『民間放送』に寄稿しました

 

私の独立とほぼ同じタイミングで、世界中で拡大を始めた新型コロナウイルス 。

良くも悪くも、人生は思ったようにはいかないと痛感します。

そんな中、ラジオの放送現場で感じていたことや

今後のラジオの可能性について、原稿として書かせて頂く機会を頂戴しました。

全国のテレビ・ラジオ・BSやCSなどの民間放送局が加盟する

日本民間放送連盟=民放連の新聞『民間放送』の6月25日号にお声がけ頂きました。

私は、今回のコロナ禍はラジオにおけるリモート放送元年であり、

それは今後のラジオの可能性を切り拓くものだと考えています。

ご興味のある方は、少し長いですが、下記にも載せますので是非ご覧ください。

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「オーディオインターフェイスが手に入らない」
――この3月から4月にかけて在京ラジオ各局が次々とリモート放送に切り替える中、
制作現場の仲間たちから悲鳴が上がり始めていた。
この機材はマイクや楽器の音をデジタルデータとしてPCに取り込むためのもの。
特にプロユースのリモート収録には欠かせない。
PA音響機器などを扱う大手サウンドハウス社によると、
6月中旬現在も手頃な価格帯のものは欠品が相次いでおり、
再入荷の見通しも立っていないそうだ。
背景には放送関係者だけでなく、ネット配信や宅録と言った巣ごもり需要の
急増があるという。社会全体で音に対する意識が高まっていることがうかがえる。
 こうした状況下、ラジオの現場ではリモートでも良い音を届けるための挑戦が
続いていた。あるフリーのディレクターは、機材を自費で集め、
収録に必要な一式を組み立てては出演者の自宅へ発送していた。
なぜ局の共有機材を使用しないのか尋ねたところ、
トラブルが起きた時に直接対処できないことを理由に挙げた。
自身で所有し、音質と動作の安定性が確認できているものでなければ怖い、と。
 今年1月に独立した私自身も、自宅にリモート対応できるスタジオを設置した。
コロナ禍で自局アナが出社できないなどの理由から、
CMや番組の出演依頼を複数受け、一部はコロナ収束後も継続が決まった。
決め手は音質の良さだったという。オーディオインターフェイスが入手困難になる中、
制作者の音への思いはますます強くなっている。
現場が安心・便利に使用できる高音質のリモート機材を整備することは、
今後の課題だと感じずにはいられない。

 一方で、リモート機材の整備はラジオ業界全体のチャンスにもつながると確信した。
別の制作スタッフは「自宅からの放送が特別ではなくなったので、
海外在住の人にも気軽にレギュラー出演を依頼できるようになった」と話す。
これまで叶わなかった放送や企画を実現できることだと気付かされ、興奮した。
海外とまでいかずとも、首都圏在住の人材が地方局でレギュラー番組を持つことの
ハードルも下がる。逆もまたしかりで、各地の優秀な人材が全国の番組に
挑戦しやすくなるということだ。
 さらにリモート放送は大地震や豪雨時の災害報道の形も変えるのではないだろうか。
私は約19年にわたって災害報道にも携わってきたが、災害が頻発かつ激甚化する中、
キー局からフルネットで情報を伝えることに限界を感じていた。
地域の情報は地域の局できめ細かく伝えることがいま求められており、
発災後いかに迅速に地域に根差した放送へと切り替えられるかが鍵となっている。
ただし、ローカル局は人手が少なく、特に土日祝日や深夜早朝は
アナウンサーが駆けつけるまで対応できないケースがままある。
こうした状況でも、一部エフエム局の生放送で音質の良さが話題になった
IPコーデックアプリ等を導入しておけば、アナウンサーは自宅にいながら
スマートフォンで初動対応ができるし、移動で目にしている様子を
そのままクリアな音声で中継することも可能だ。

 さて、私はリモート収録を行う一方で、局のスタジオでの生放送や収録も
継続してきた。4月からエフエム東京で担当している伊藤俊之さんとの番組
「Think Japan」では、初回を除き6月現在も顔をマスクで覆ったまま収録している。
2人の間には飛沫を防ぐアクリル板もある。
こうなると、どうしても会話の間合いがつかみにくい。
私たちが普段、いかに相手の表情や口の動きを読んで会話しているのかを痛感する。
そこで、いくつかのポイントをいつも以上に意識するようになった。
例えば、声がぶつからないよう他の出演者の息を吸う音を聞き分ける。
相槌を減らし、目や体の動きで相手の話を受け止める、などだ。
諸先輩方には今更と笑われそうだが、スタジオという特殊な空間で、
情勢の変化を受けて生まれる日々の工夫があり、放送は生き物だと思い出す。

 国内でコロナの第一波が収束し、多くの番組はスタジオへと戻っている。
リスナーも、日常が帰ってきたと喜ばしく感じるだろう。
一方で今回のリモート放送の拡大は、スタジオという概念そのものを拡張させた。
コロナ収束後、それを緊急措置の技術として眠らせてしまうか、
ラジオの未来を切り拓く知恵として発展させていくか。
いま私たちに大きく問われている気がしてならない。

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