防災士が熊本地震を見て、持ち出し袋をどんどん削っていった話

持ち出し袋の中身を、どんどん削る。
熊本地震の現場を取材し、防災士の私が行き着いた答えが、これだった。

これまで私は、欲張りハムスターの頬かと思うほどパンパンの持ち出し袋を、「完璧」だと思い込んできた。今思えば、ちょっと恥ずかしい。

地震から6日目、私は取材で熊本地震の各避難所を訪れた。
避難している方は、家が倒壊してしまったり、高齢の一人暮らしでどうにもならなかったり、あるいはその両方だったり。そういう方が多くを占めていた。
着の身着のままの避難。
持っていても、最低限の着替えだけを入れたナイロンバッグ。
防災グッズがたくさん入ったリュックを持っている方なんて、ほとんどいなかった。

そして何より、仮に自分が「完璧な持ち出し袋」を持っていたとしても、避難所では思うように使えないことがある。
なぜなら、自分より高齢の方、具合の悪い方、小さな子どもや妊婦さん、障がいのある方などが、着の身着のまま、同じ空間で過ごしているからだ。
いわゆる「災害弱者」と呼ばれてきた方ほど、避難所で生活するケースが多い。
そんな方の隣で、自分だけ缶詰を開けてご飯を食べ、ランタンでお湯を沸かしてスープや野菜入りの味噌汁を飲む。
正直、これはとても難しい。
いくら「自分の備えなのだから、自分で使えばいい」と言われても、実際にその場に立てば、そう簡単にはいかない。

もちろん、割り切って自分の備えを使える人なら、それでいい。
リュックの中身を他の人に分けられる人なら、それもいい。
ただ、分けてもらえなかった人から怒りや悲しみをぶつけられることもある。
その感情を受け止める覚悟は必要だ。

じゃあ、備える意味がないのか。
避難所に行くべきではないのか。
そうではない。
避難所に持ち出すものは、自分に必要なものを「最低限」に抑えることが重要なのだと、私は強く感じている。
熊本地震でも、地域や時期による偏りはあったものの、避難所には支援物資が届いていた。避難所にもともと備蓄があり、給水車も全国から駆けつけていた。
もちろん、支援が届くまでの空白や、物資が十分に行き渡らないことはある。
それでも、すべてを自分の持ち出し袋だけでまかなわなければならないわけではない。
公助と共助によって、命をつないでもらうことはできる。

そう考えると、自助、つまり持ち出し袋は、「何があっても自分だけで生き延びるための道具」ではない。
「避難生活の中で、自分がどこまで不便を減らしたいか」という視点で、入れるものを選べばいい。

だから今回、あえて「あれこれ備えない持ち出し袋」を百均でそろえてみた。

リュック(770円)や、保温できるステンレスマグ(550円)、
エアーマット(770円)込みで、合計4,950円。
前述したような避難所の環境、水や食料などはある程度確保されることを前提に、最初の一週間を過ごすためのものを組んでみた。


重さは、500mlの水を2本入れて3kgちょうど。
身長165cmの私が背負うと、写真の通り大きすぎず、軽めだ。

食料も入っているが、これだけで一週間を自給自足するための量ではない。
水や食料は、避難所の備蓄や支援物資、炊き出しなどを前提にしている。
「何もないところで一週間生き延びる」ためではない。
避難所で過ごすとき、自分の不便を少し減らすためのものだ。
食欲が落ちていても食べられるお粥、野菜不足を補う青汁、たんぱく質を摂れる魚の缶詰は必ず入れておきたい。

リュックの中にはまだ余裕があるので、その人に合わせて必要なものを追加できる。
女性なら、生理用品やオールインワン化粧水、日焼け止め。
子どもなら、おもちゃや本。
要配慮者なら、アレルギー対応食や介護用おむつなど。
「みんなに必要なもの」を詰め込むのではなく、「自分に必要なもの」を少しだけ足す。
それでいいと思っている。

なお、保温マグは、温かい炊き出しをもらっても、すぐに食べられないことがあるため。
冷たいものをもらったときにも、もちろん役立つ。
上から被せるだけでピタッと吸い付く蓋は、ホコリや飛沫から中身を守ってくれる。

そして、エアーマットはやエアー枕もこんな値段で買えるようになっていたことに、ちょっと驚く。
段ボールベッドが用意されても、結局、マットがなければ硬くて痛い。
だから、これは入れておきたい。

また、持ち出し袋は、その人が「どう避難するか」で変わる。
家が比較的新しく、耐震補強もしているなら、持ち出し袋をパンパンにするより家のローリングストックを充実させる。
避難所には行かず、車中泊をするなら、車に備蓄しておく。
被災地の外へいち早く避難するなら、必要なものは避難先で買うことを前提に玄関には貴重品や現金、薬、どうしても失くしたくないものだけをまとめておく。

つまり、誰にとっても同じ「完璧な持ち出し袋」があるわけではない。

防災というと、つい「何を買えばいいか」という話になりがちだ。
でも、本当に考えるべきなのは、「何を買うか」ではなく「どう動くか」。
どう動くかが決まれば、何を備えるべきかも決まる。

だから私は、もう欲張りハムスターのように、あれもこれもと頬袋をパンパンにする防災はしない。
持ち出し袋に「あれこれ詰め込む」ことから、少しずつ卒業したいと思っている。

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